札幌高等裁判所 昭和27年(う)24号・昭27年(う)25号・昭27年(う)23号 判決
原判決は被告人横山勝三の副検事に対する第二回供述調書を同人の幕田和夫殺害の証拠としているが、これは取調に当つた警察官等が同被告人がヒロポン中毒の為禁断症状を呈し苦しんでいるのを利用しヒロポンを与えて供述せしめたものであるから其供述は任意に出でたものではない。従つて之を録取した右供述調書は証拠能力を有しないものであるというに帰するが、原判決挙示の各証拠並に当審の受命裁判官の検証調書、証人横山勝市の訊問調書、当審公判廷に於ける証人佐藤隆の供述を綜合すれば原判示事実は優に之を認めることができる。原判決は被告人横山勝三の副検事に対する第二回供述調書を証拠に採用していること及び同被告人は昭和二十六年八月三十日取調に当つていた警察官田上文士に対して正直に述べるからヒロポンを注射してくれるよう要求したところ同人は之を容れ同被告人の指示した密売者より買い与えたことは所論の通りである。しかし同被告人が右田上文士に対し犯行を自白したのはヒロポンを注射する前である。しかし当時同被告人は強烈な禁断症状を呈していたものではなく注射後も其前とはほとんど変つたところはなかつたことは原審第二回公判調書中証人田上文士、同五島安雄の供述記載によつて認められるところであるから同被告人が禁断症状の苦痛に堪えかねヒロポンの注射ということに誘惑され又は其注射後の興奮にかられて理性を失い取調の警察官や副検事の要求のまま虚偽の自白をしたものとは認め難い。従つて同被告人の前記自白調書は適法に作成されたものと云はなければならない。もつとも前記昭和二十六年八月三十日は覚せい剤取締法施行の後であつて所謂ヒロポン等の覚せい剤類の譲渡譲受使用は一般には禁止されていたものであるから取調べの任に当つていた警察官田上文士が被告人横山勝三の要求にたやすく応じ密売の覚せい剤を買い与えたことは妥当の措置とは云い得ないが此の一事を以て同被告人の警察官副検事に対する供述が任意に出でたものとはならないという所論は当らない。記録を精査するも原判決には何等所論のような事実の誤信や採証の法則を誤つた点がない。所論は原審の裁量に属する証拠の取捨並びに其の価値判断を攻撃するものにすぎないから採用し難い。論旨はいずれも理由がない。
(後略)